第3章 「概念」 内容概説はマザーブレイン2011年6月号に掲載
ここでは、フル版TFRSsの「フレームワーク」を要約したような記述がなされていますが、中小企業等における財務諸表作成に配慮したような記述もみられます。
財務諸表作成における基礎となる前提は、「発生主義(ACCRUAL BASIS)」および「継続企業(GOING CONCERN)」であるとしています(フル版と同様)。
財務諸表の目的、利用者の要求する情報については、フル版と大差ない記述がされていますが、財務諸表の利用者に関しては、中小企業等の場合は投資者(オーナー)の重要性が高いとされています。
財務諸表における情報の有用性を決定する質的特徴についてもフル版と大差ない記述がされていますが、中小企業等の場合は、ベネフィットとコストの均衡がより重要であるとされ、財務諸表作成の作業負担等に対する考慮がみられます(公正価値の採用は高コストとなる場合があるという記述、等)。
第4章 「財務諸表の表示」 内容概説はマザーブレイン2011年6月号に掲載
ここでは、「完全な一組の財務諸表」の構成およびそれらに表示すべき内容等が記述されています。
フル版・タイ国会計基準第1号「財務諸表の表示」との大きな違いは、一組の財務諸表の構成が「財政状態計算書」「損益計算書」「所有者持分変動計算書」「注記」であるとされ「キャッシュ・フロー計算書」は原則として作成を要求されていない点です。
また当基準では、この「キャッシュ・フロー計算書」とともに、「セグメント情報」、「特別利害関係取引」、「金融商品:開示」の適用・開示は求められていませんが、これらが有用であると判断した場合は開示することもできるとし、この場合、その作成には、フル版TFRSsにおける各々の該当する基準にしたがうことが必要とされています。
第5章 「会計方針の変更、会計上の見積りの変更および誤謬の訂正」 内容概説はマザーブレイン2011年7月号に掲載
フル版・タイ国会計基準第8号との大きな違いはありません。
会計方針の変更および過年度の誤謬の訂正は、期間特定または変更の累積的影響を測定することが実務上不可能である場合を除いて、遡及的に適用するのが原則です。
会計上の見積りの変更の影響は、原則として、変更期および将来の期間の純損益に含めることにより、将来に向かって認識しなければなりません。
第6章 「現金および現金同等物」 内容概説はマザーブレイン2011年7月号に掲載
現金および現金同等物の定義等が記述されています。
引出しに制限のある預金については通常の預金と区別して表示すべき旨(第74、75項)や、当座借越を流動負債として表示すべき(=現金預金と相殺してはならない)旨(第76項)が明記されています。
第7章 「債権」 内容概説はマザーブレイン2011年7月号に掲載
債権の定義、貸倒引当金の計算方法、不良債権の償却処理などについて記述されています。
債権は回収可能価額によって測定されるべきとされ(第79項)、貸倒引当金の通りの算定方法が示されています(第81項)。
(1) 純売上高に対するパーセンテージ法
(2) 年齢(延滞期間)別によってクラス分けされた債権残高に対するパーセンテージ法
(3) 個別法
上記(1)および(2において、取引高または対象残高に一定割合を乗じて算定する方法が選択肢として示されています。
なお、タイ語原文の「ヴィティ・アトラー・ローイ・ラ・○○」という用語を、「パーセンテージ法」と訳しました。
第8章 「棚卸資産」 内容概説はマザーブレイン2011年7月号に掲載
フル版・タイ国会計基準第2号「棚卸資産」との大きな違いはありません。
フル版と同様、低価法のみが評価基準として認められており(第88項)、いわゆる原価法は認められていません。また、棚卸資産原価の当期売上原価への配分方法は、個別法、先入先出法または加重平均法のうちから選択されるとされ(第93項)、後入先出法は認められません(これもフル版と同じ)。
第9章 「投資」 内容概説はマザーブレイン2011年8月号に掲載
この章の記述と関連する主なフル版・タイ国会計基準は以下のとおりです。
TAS第27号 「連結財務諸表および子会社投資の会計」
TAS第28号 「関連会社に対する投資」
TAS第31号 「ジョイントベンチャーに対する持分」
TAS第32号 「金融商品:表示」
TAS第36号 「資産の減損」
TAS第39号 「金融商品:認識および測定」
TFRS第7号 「金融商品:開示」
まず、投資項目に関する開示は、この第9章で要求されている事項を満たせばよいので、フル版に比べると開示項目が少ないと考えられます。
この第9章に基づいた投資の分類および取得後(各会計期末)における測定(評価)の基準は、以下のように要約されます。
投資の分類
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取得後(各会計期末)における測定(評価)基準
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資本性投資
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売買目的有価証券
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公正価値(変動額は損益計算書チャージ)
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売却可能有価証券
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公正価値(変動額は資本項目に区分表示)
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市場性のない有価証券
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取得原価(減損あれば控除)
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子会社株式
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取得原価(減損あれば控除)
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関連会社株式
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取得原価(減損あれば控除)
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ジョイントベンチャーに対する持分
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取得原価(減損あれば控除)
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負債性投資
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売買目的有価証券
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公正価値(変動額は損益計算書チャージ)
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売却可能有価証券
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公正価値(変動額は資本項目に区分表示)
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市場性のない有価証券(下記以外)
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償却原価(減損あれば控除)
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満期日まで保有する意図を持つもの
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償却原価(減損あれば控除)
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第117項において、投資の減損について規定されています(詳細は後述)が、フル版に比べると減損適用の機会(可能性)が小さいと考えられ、また適用した際の回収可能価額の測定には、高いコストをかけない信頼できる見積売却価額を用いることができるとされているのが特徴です。
第10章 「有形固定資産」 内容概説はマザーブレイン2011年8月号に掲載
この章の記述と関連する主なフル版・タイ国会計基準は以下のとおりです。
TAS第16号 「有形固定資産」
TAS第36号 「資産の減損」
TFRS第5号 「売却目的で保有する非流動資産および非継続事業」
まず、フル版・第16号「有形固定資産」との大きな違いは、認識後の測定について「再評価モデル(定期的に公正価値により再評価する)」の選択肢がなく、「原価モデル(取得原価ベース)」のみとなっている点です。但し、企業はその公正価値が信頼性をもって測定できる場合には、公正価値およびその算定基礎について財務諸表注記において開示することができるとされています(第135項)。
フル版との違いはありませんが、取得原価の構成要素(第127項)において、解体・除去費用や原状回復費用の取得時見積額を含める旨が明記された点は、今後実務上は注意を要する可能性があります。
減価償却に関する記述も、フル版との大きな相違はありません。
第136項において、有形固定資産の減損について規定されています(詳細は後述)が、フル版に比べると減損適用の機会(可能性)が小さいと考えられ、また適用した際の回収可能価額の測定には、高いコストをかけない信頼できる見積売却価額を用いることができるとされているのが特徴です
売却目的で保有する非流動資産の扱い(第148-149項)も、基本的にはフル版と同様ですが、その測定(減損損失の認識)にあたっては、公正価値に替わって予想売却価額を用いるものとされています。
第9章および第>10章に記述のある 「資産の減損」について
フル版・タイ国会計基準第36号 「資産の減損」との相違は、大きく以下の二点であると考えられます。
(1) 減損会計適用を判断する際の「兆候」の重大さ
当基準では、「資産の価値が永久に(PERMANENTLY)下落する兆候がある場合」とされています。フル版では、各会計期末に資産が減損している兆候のいずれかが存在する場合に回収可能価額を見積もるとされていますので、これと比較すると、実際に減損会計を適用しなくてはならない局面は限定的なのではないかと思います。
(2) 減損会計適用時の「回収可能価額」の測定について
当基準では、回収可能価額の測定は、売却費用控除後の予想売却価額(高いコストをかけない信用できる見積売却価格、不動産鑑定価額などを入手する必要はない)にて行うことができるものとされています。フル版では公正価値または使用価値のどちらか高い方を基礎とするとされていますので、これと比較するとコストや労力の面で中小企業への配慮がなされているようです。
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第11章 「無形資産」 内容概説はマザーブレイン2011年9月号に掲載
フル版・TAS第38号「無形資産」との大きな違いは、以下の二点です。
第一点は、第10章「有形固定資産」と同様、認識後の測定について「再評価モデル(定期的に公正価値により再評価する)」の選択肢がなく、「原価モデル(取得原価ベース)」のみとなっている点です。但し、企業はその公正価値が信頼性をもって測定できる場合には、公正価値およびその算定基礎について財務諸表注記において開示することができるとされています(第181項)。
第二点は、耐用年数を確定できない無形資産については、10年にわたり償却を実施すると明記されている点です(第188項)。なお、フル版にはこのような規定がなく、耐用年数を確定できない無形資産は償却しないこととされています。
第12章 「投資不動産」 内容概説はマザーブレイン2011年9月号に掲載
フル版・TAS第40号「投資不動産」との大きな違いは、以下の点です。
投資不動産についても、認識後の測定について「公正価値モデル(毎期末に公正価値で再評価し、差額は損益計算書チャージする)」の選択肢はなく、「原価モデル(取得原価ベース)」のみとなっています。
また、フル版においては投資不動産に「原価モデル」を採用した場合においても公正価値を注記することが義務づけられています(TAS第40号「投資不動産」第79項の開示項目)が、当基準においては、その公正価値が信頼性をもって測定できる場合には、公正価値およびその算定基礎について財務諸表注記において開示することができる(第213項)とされ、開示項目(第218項)として義務づけられてはいないようです。
第13章 「借入費用」 内容概説はマザーブレイン2011年10月号に掲載
フル版・TAS第23号「借入費用」との大きな違いはありません。フル版においても当基準においても、資産の取得のための借入費用のうち「適格資産」の取得、建設、または生産に直接関連する借入費用は、資産化しなければならないとされています。
第14章 「リース」 内容概説はマザーブレイン2011年10月号に掲載
フル版・TAS第17号「リース」との大きな違いはありませんが、細かいところでは以下の点が異なります。
リース契約がファイナンス・リースに分類されるか否かの判定基準の記述があります(当基準では第257項)。フル版における同様の項ではこの判定基準に具体的な数値基準が明記されていないのですが、当基準においては数値基準が以下のように追記されています。
257.2 借手が、選択権の行使日の公正価値よりも十分に低いと予想される価格で当該資産の購入選択権を与えられており、リース開始日に当該選択権の行使が合理的に確実視される場合。例えば、リース資産買取価格がリース開始時の資産の公正価値の5%を超えない場合、その価格は公正価値よりも十分に低いものと扱うものとされる。
257.3 所有権が移転しなくても、リース期間が当該資産の経済的耐用年数の大部分を占める場合。例えば、リース期間が当該資産の経済的耐用年数のおおよそ80%以上である場合である。
257.4 リース開始日において、最低リース料総額の現在価値が、当該リース資産の公正価値と少なくともほぼ等しくなる場合。例えば、最低リース料総額のリース開始日における現在価値が、リース開始日のリース資産の公正価値のおおよそ90%以上である場合である。
第15章 「法人所得税」 内容概説はマザーブレイン2011年11月号に掲載
未払法人税等は発生主義で認識すべしとされ、原則として、税効果会計適用の必要はありません。しかし、フル版・TAS第12号「法人所得税」を選択適用することも可能とされています。
第16章 「引当金および偶発債務」 内容概説はマザーブレイン2011年11月号に掲載
フル版・TAS第37号「引当金、偶発債務および偶発資産」との大きな違いはありませんが、フル版・TAS第19号「従業員給付」に関連する事項で相違があります。
当基準では、第312項において、企業が従業員給付を認識する際には、第304項の要件に基づき、報告期間の末日における現在の義務を決済するために要する最善の見積もりによって認識することを要求しています。第304項の要件とは、以下の通りです。
引当金は、次の場合に認識されなければならない。
304.1 企業が過去の事象の結果として現在の義務(法的またはみなしの)を有しており、
304.2 義務を決済するために経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高く、
304.3 義務の金額について信頼できる見積もりができるとき。
確定給付の退職給付債務(タイにおいては定年退職予定者の解雇補償金もこれに該当するとされています)の認識が論点の一つとなっているようです。当基準では、これを「最善の見積もり」によって認識することとされています。
第312項ではまた、企業が従業員給付に関する引当金の認識にあたり、フル版・TAS第19号「従業員給付」の選択適用も可能としています(この場合、企業は従業員給付に関する全ての項目についてこれに従う必要があります)。フル版のほうを適用した場合、確定給付の退職給付債務は、数理計算上の過程を使用して計算(通常は、年金数理人等に依頼して計算)する必要があります。
従業員の退職後給付に対する引当金の理解のための例示 全文概説はマザーブレイン2015年9月号に掲載
第17章 「後発事象」 内容概説はマザーブレイン2011年11月号に掲載
フル版・TAS第10号「後発事象」との大きな違いはありません。
第18章 「収益」 内容概説はマザーブレイン2011年11月号に掲載
フル版・TAS第18号「収益」との大きな違いはありませんが、この後の第19章において「不動産販売収益の認識」について別途記述がさなれています。
第19章 「不動産販売収益の認識」 内容概説はマザーブレイン2011年12月号に掲載
不動産販売(「土地の販売」「建物付土地の販売」「コンドミニアムの販売」の3種類)の収益認識基準について記述がなされています。
一定の条件(判断基準)が満たされれば、「工事完成基準」のほかに「工事進行基準」、「割賦基準」の選択適用が可能とされています。
第20章 「工事契約」 内容概説はマザーブレイン2011年12月号に掲載
フル版・TAS第11号「工事契約」との大きな違いはありません。
第21章 「外国為替レート変動の影響」 内容概説はマザーブレイン2011年12月号に掲載
フル版・TAS第21号「外国為替レート変動の影響」との大きな違いは、「機能通貨」の概念が適用されていない点です。フル版では「機能通貨(企業が営業を営む主たる経済環境における通貨)」の考え方に基づき、機能通貨以外で行われる取引を外貨建取引としていますが、当基準では外国通貨を「タイバーツ以外の通貨」と定義し、タイバーツ以外の機能通貨を想定していません。
また細かいところでは、当基準の第389項で以下が明記されています。
・外貨建貨幣性資産項目は、買相場を用いて換算しなければならない。
・外貨建貨幣性負債項目は、売相場を用いて換算しなければならない。
第22章 「発効日」
当基準の発効日は2011年1月1日以降開始の事業年度からとされています。
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